2025/9/7-10に開催された2025年第86回応用物理学会秋季学術講演会(名城大学 天白キャンパス)にオンライン参加した。個人的に興味深かった発表を以下に示す。
GaNについては「13.7 化合物及びパワーデバイス・プロセス技術・評価」を中心に「15.4 III-V族窒化物結晶」の一部を聴講した。今回印象的であったのは、N極性デバイス・成長に関する報告が増えたことである。
N極性GaN HEMTに関して、以下の発表について紹介する。
■[8p-N322-8] サファイア基板上N極性GaN HEMTにおけるゲートリークの抑制(NTT先端集積デバイス研)
サファイア基板上N極性GaN HEMTにおけるゲートリーク電流要因として、AlGaNバックバリア下SiドープGaN層、および、メサ側壁がN極性ではテーパー(Ga極性では逆テーパー)になるためゲート電極と接触することを挙げ、その対策としてSiドープGaN層の除去とメサ側壁をSiNで覆うことによりゲートリーク低減を図った。GaN HEMTは素子分離を注入で行うことが多いが、メサ分離で行うInP HEMTを開発されている研究機関ならではの視点だなと感じた。
■[8p-N322-9] 汎用機械学習ポテンシャルを用いたN極性GaN HEMTの熱輸送特性の解析(住友電工)
N極性GaN HEMTはバックバリアのAlGaN層の熱伝導率が低いことが課題で、汎用機械学習ポテンシャルを用いた分子動力学法による計算で熱伝導率を求めた。結果として、GaN熱伝導率 18.1 W/mKとバルクの10分の1程度と低い。フォノンの自由工程よりも小さいことが原因とのこと。これが真とするなら放熱にはかなり厳しい値。計算のセルサイズが小さい等まだ真の値ではないようにも感じるが、アプローチは面白い。今後の報告に期待したい。
■[8p-N322-10] リセスゲート構造によるN極性GaN HEMTの電流コラプス抑制(住友電工)
リセスゲートN極性GaN HEMTは良好なDC特性は得られるが、出力密度(3.1 W/mm)が低いのが課題。SiN/GaN キャップ界面にトラップによりオンストレスで電流コラプス発生。AlGaN/GaN 3層キャップ構造にてGaNキャップ内の2nd-2DEGでトラップをスクリーニングすることによりオンストレスでもコラプス改善。GaNキャップ厚15 nmにて 出力電力6.5 W/mmまで向上した。通常のショットキー構造の場合、側壁とゲート電極の接触が気になるが、HfSiOx MOS構造なので有効なのであろう。
■[8p-N322-11] N極GaN HEMTにおけるドレイン電流変動に対する影響(住友電工)
N極性GaN HEMTにおいてAlGaNバックバリア側への電子トラップによるドレイン電流変動を調査した。Ga極性HEMT、および、ノンドープ(UID)・Feドープバッファで比較した結果、Ga極性HEMTでは電圧ストレス印加後のドレイン電流変動(Feドープ>UID)が見られるが、N極性GaN HEMTではバックバリア効果によりFeドープ有無に関係なく、ドレイン電流変動がほとんど見られないという大変興味深い報告がなされた。N極性による電流コラプス低減は、[10p-N301-6, 名大他] の10 nm GaNチャネル/relaxed-N-polar AlN buffer HEMTでも報告された。大きな課題であったドレイン電流変動を抑制できるN極性GaN HEMTの今後の進展に期待する。
プロセス・デバイスに関して、以下の発表について紹介する。
■[8p-N322-15] AlGaN/GaNヘテロ構造に対する完全リセスオーミック接触抵抗のモデル解析(アドバンテスト他)
AlGaN/GaNヘテロ構造に対する完全リセスオーミック接触抵抗について、575℃ 低温アニールTi/Al/TaとTi/Al/Ti/Au電極における側壁とオーバーラップ部分を分離して評価。Ti/Al/Ti/Auでは 側壁の抵抗が低く完全リセスの効果があるが、Ti/Al/Taではオーバーラップ部分のシート抵抗が低減し完全リセスの効果は薄い。Ti/Al/Taでは、Taによる歪でAlGaN中に高濃度分極ドーピングが生じるとのメカニズム。[7p-N101-3, 名城大理工]でもAlGaN層厚方向組成傾斜による分極ドーピング(この場合、p型)の報告があった。また、筆者の経験でもIII-V族で僅かに分極するInGaPグレーデッド層でp型伝導を示したことがあり、分極ドーピングは大変興味深い。
■[8p-N322-17] InAlGaN HEMTにおけるゲートリーク電流に対するInの影響(富士通)
InAlGaN HEMTのゲートリーク電流に対するInの影響を調査した結果、ゲートリークの要因はIn偏析ではなく、結晶転位であることを明らかにした。高Al組成の場合、InAlGaNの方がAlGaNよりも表面がスムースで逆方向リークが小さい。ただし、850℃未満のInAlGaN低温成長では下地GaN層よりも転位が増える。さらに転位終端する方法として、AlNスペーサー層とアモルファスAlNキャップを採用することにより、ゲートリークはさらに一桁低減した。
■[9a-N322-2] 薄膜ベース層を用いたAlGaN/GaN HBTの作製(名大院工他)
連続成長AlGaN/GaN HBTの電流利得βを向上するためp-GaNベース層を薄膜化(80 nm, 8.8E18 cm-3)。p-GaNベース層の活性化条件(850℃, 90 min)は、メササイズ100 umで水素が横から抜ける条件とのこと。βはエミッタメササイズ10 umで100、30 umで55、20 umで65。5年程前はβ<1でGaN HBTの実現には疑念を持っていたが、β向上に向けた継続的な研究に敬意を表したい。
結晶成長に関して、以下の発表について紹介する。
■[9a-N301-1] グラフェン/SiC 基板上窒化物エピタキシャル薄膜の剥離に関する検討(東大生研他)
グラフェン/SiC 基板上窒化物エピタキシャル薄膜の剥離において、グラフェン上MOCVD成長ではグラフェン劣化・欠陥導入等(穴)により残渣(成長)が残るため、パルススパッタ堆積GaNを採用。4H-SiC基板の高温アニールにより6-7モノレイヤのグラフェンを形成。GaN堆積後、シリコーンゴムを塗布し、サポート基板に張り付け、液体窒素中で自発的に剥離する。剥離直後はシリコーンゴムで剥離層は反るが、戻る。また、剥離後もグラフェンは残るとのこと。筆者もGaAsエピ/AlAs犠牲層のエキタキシャルリフトオフでブラックワックスの応力を利用して剥離したことがある。膜の熱収縮を利用するのも面白い発想である。
Ga2O3については、13.7「化合物及びパワーデバイス・プロセス技術・評価」中心に21.1 合同セッションK 「ワイドギャップ酸化物半導体材料・デバイス」、【一般公開】社会を変えるワイドギャップ半導体の現状と将来 の一部を聴講した。
今回絶縁膜/Ga2O3界面の改善についていくつか報告があった。MOS界面改善には酸素欠損除去のO2 PDA等が必要であるが、基板が高抵抗化するという課題に対して、希釈水素熱処理H2/N2-PMA(200℃)[7a-N322-3, 阪大院工]、表面オゾン処理と0.1%O2+N2-PDA(600℃, 60min)[7a-N322-4, 東大院新領域他]、Ar-PDA(1000℃)[7a-N322-5, 阪大院工] が報告された。前回はGa2O3の不活性化技術について取り上げたが、GaNの時と同様に今後MOS界面についての報告が増えそうである。
その他のプロセスでは [10a-N105-3, 滋賀県大工他] よりシリコン薄膜堆積法を用いたβ-Ga2O3へのn型ドーピングについて報告された。EB蒸着では拡散しないが、スパッタでは拡散する(チャネリング)。メカニズムとしては界面に形成されるSiOx膜厚の違いを上げていたが、入射エネルギーの違いを指摘されていた。ダメージや応力も影響しているのではないかと感じた。また、[10p-N105-1, NIMS] より2.38 wt% TMAH現像液エッチングによる(001)面β-Ga2O3のステップ&テラス表面形成が報告された。40℃ 1h処理で、25℃ 8h(RMS 0.26 nm, ステップ0.56 nm)と同等の表面モホロジーが得られるとのこと。
一方、デバイスについてはあまり報告がなかった印象である。[10p-N105-4, 京大他] よりミストCVD成膜β-Ga2O3 RF MESFETが報告された。Lg=0.45 um, n-Ga2O3 (2e18 cm-3, 70 nm)チャネルにてgm=35 mS/mm, ft/fmax=8.3/18.4 GHz, 2.42 GHz大信号動作12 dBm(16 mW), PAE10%とMBE, MOCVD成長と同等性能が得られることが報告された。また、[7p-N101-8, 大阪公立大院工、情通機構] よりこれまでのGa2O3デバイス開発を網羅した報告がなされた。全体像を見るのには非常に良かった。
デバイスについては、電子ビーム描画によるダイヤモンドMOSFET [7a-N322-1, 7a-N322-2, 佐賀大他] が報告された。実効ゲート長157 nmにてft=15 GHz, fmax=120 GHzである。ftとfmaxの差分が大きく、ダイヤモンドの特徴とのこと。ダイヤモンドはバルク移動度(数千cm2/Vs)が高いので高周波動作に適しているとのことだが、現状正孔シート濃度3.8E13 cm-2で移動度70 cm2/Vs程度。改善の余地がまだまだ残っているので、今後の進展に期待したい。
フォノンエンジニアリング
SiOxとArを用いたハイブリッドイオン源による表面活性化接合によるGaN とダイヤモンド接合 [7p-N105-9, 東大工他] が報告された。SiOxがバインダ(接合)層となる。GaN/2.5 nm SiOx/ダイヤモンドの界面熱抵抗(TBR)は8.3 m2K/GWと非常に低い。一方で、TBRの界面層厚依存性が強く、5.3 nmで34 m2K/GWと急激に増加。厚くなると相互拡散層の(アモルファス)カーボンが増えて、フォノンのミスマッチを増加させるとのこと。ダイヤ接合の熱輸送メカニズムは大変興味深い。