2026/3/15-18に開催された2026年第73回応用物理学会春季学術講演会(東京科学大学 大岡山キャンパス)にオンライン参加した。個人的に興味深かった発表を以下に示す。
GaNに関しては、「13.7 化合物及びパワーデバイス・プロセス技術・評価」のセッションを受講した。本セッションでは、特にN極性GaN HEMTおよび分極ドーピングに関連する研究報告が際立って発表された印象を受けた。
N極性GaN HEMTに関して、以下の発表について紹介する。
NTTからは、N極性GaN HEMTにおける主要課題であるAlGaNバリア/GaNバッファ界面に蓄積する2次元正孔ガス(2DHG)起因のバッファリーク電流抑制を目的とした検討結果が報告された。具体的には、C面4H-SiC基板上にCドープ高抵抗AlGaN(100 nm, Al=0.07)/Siドープ組成傾斜AlGaN(Al=0.07→0.2)による構造 [17p-W8E_101-1]、および格子緩和1000 nm AlGaNバッファ層を適用した構造 [17p-W8E_101-2] が紹介された。加えて、サファイア基板上に高抵抗CドープGaNバッファ層(800 nm)/遷移層/組成傾斜AlGaNバックバリアを備えた構造 [17p-W8E_101-3] についても発表があった。質疑応答においては、AlGaNバッファの放熱性能への負の影響や、2DHGの有効活用法に関する質疑が提起された。著者は、GaN HEMTの熱伝導特性に関連したAlGaNバッファの課題認識およびN極性GaNを活用した正孔引抜き構造の提案等に言及しており、今後の研究動向が注目される。
名大院工らによる研究では、Ga極性成長エピタキシャル層を反転させたN極性GaN/AlGaN HEMTについて報告がなされている [17p-W8E_101-5]。GaN基板上にGa極性成長サンプルを形成後、ハンドリング用として300 µm厚のGaNをHVPE法で成長させ、続いて基板除去を実施する。N面側からPEC選択エッチングおよびICP-RIE処理を施し、GaNチャネルまで露出させた後、デバイスを作製した。本デバイスは動作実証されている。FeドープGaNバッファ層に関しては、Feメモリー・拡散の抑制が可能な構造である。一方で、ハンドリング層についてはHVPE成長GaNよりも異種基板との接合やダイヤモンドCVDの利用が実用的であると考えられる。
分極ドーピングを利用したデバイスに関して、以下の発表について紹介する。
NTT物性研は、AlN系分極ドープFET(pol-FET)の高周波電力増幅特性に関する成果を報告した [17p-W8E_101-8]。本研究はIEDM2025で発表され、ニュースレター202602でも紹介した。チャネル層には組成傾斜型AlxGa1-xNを採用し、分極ドーピング技術を適用している。平均Al組成(Xave)=0.85において、ドレイン電流Id=0.54 A/mm、ft/fmax=24.1/78.7 GHzを達成した。また、2.4 GHz動作時にはPsat=23.8 dBm、電力密度0.8 W/mmを示している。付帯情報として、表面パッシベーションがなく、約40%の電流コラプスが観測された。AlNは自然酸化しやすく、加えて高バンドギャップ材料の選択肢は限られると考えられる。さらに、負性コンダクタンスの存在について指摘があり、AlGaN層の熱伝導率が今後の課題となる可能性が示唆される。
陽明交通大学は、擬似変調ドープ構造を用いたGaN系ヘテロ接合の電子移動度向上に関する研究成果を報告した [17p-W8E_101-16]。AlGaN/GaNヘテロ構造において、中間層として10 nm厚AlxGa1-xN傾斜層(x=0.22→0.01)を挿入することで、電子移動度が1300 cm2/Vsから2070 cm2/Vsへと大幅に増加した。一方で、中間層厚さが15 nm以上となる場合には、三次元伝導成分の寄与が顕著となり、移動度が低下する傾向が認められた。また、急峻なヘテロ界面では分極電荷が界面近傍に集中するのに対し、緩やかなヘテロ界面では分極電荷が広範囲に分散し、2次元電子ガス(2DEG)分布との重なりが減少することが示唆された。これらの知見は、筆者が以前検討したInGaNチャネルHEMTにおける、InGaN層の薄膜化によって合金散乱成分を低減し、移動度を向上させたアプローチと類似している(J. Crystal Growth 272 (2004) 278–284, https://doi.org/10.1016/j.jcrysgro.2004.08.071)。
プロセス・デバイスに関して、以下の発表について紹介する。
京セラは、イオンカット技術を適用して自立GaN基板からGaN層を窒化アルミニウム(AlN)セラミックへ転写する基板(イオンカット基板)上におけるGaNエピタキシャル成長とGaN HEMTの動作について報告した [17a-W8E_101-7, 8]。GaNエピタキシャル成長時の課題として、成長表面に形成されるブリスタ(気泡)、クレータ、並びに新たな転位導入(転位密度1.7E6→6.9E8 cm-2)が指摘されている。これらの課題解決策として、高温アニール処理(900℃以上)によるAlNセラミック側SiO2/Si接合層の脱ガス、およびイオン注入工程に起因するGaN表面歪み層の除去が実施された。その結果、GaNエピタキシャル成長後にはブリスタが消失し、転位密度も2.6E6 cm-2まで低減された。デバイス評価ではMIS-HEMTによる動作確認がなされている。質疑応答では、単一処理で約5 µmが除去され、20回以上の再生利用を想定しているとの説明があった。技術的に優れた手法であるが、GaN基板サイズの律速性、QST基板との差別化、自立GaN基板よりも低いAlNセラミックの熱伝導率など、まだ課題が残されているように感じた。
住友化学は、石英フリーHVPE(QF-HVPE)法により成長させた高純度GaNの特性評価について報告した[18a-W8E_101-3]。量産炉で成長させたGaNでは、キャリア濃度n=1.6E15 cm-3、移動度1,689 cm2/Vs(295K)が確認された。解析の結果、従来より一桁以上低いC濃度(1.4E13 cm-3)を達成し、室温において極性光学フォノン散乱限界まで移動度が向上することが示された。非常に素晴らしい成果であると思う。
名古屋大学等による透過電子顕微鏡(TEM)構造解析および第一原理計算に基づく研究により、Ga酸化膜/GaN界面の原子配列が報告されている [18a-W8E_101-8]。AlSiO/p-GaN構造のTEM観察では、幅10 nm以下のテラスステップが確認され、その界面層においてGa位置の面間隔は理論モデルと一致し 0.29±0.01 nm、GaN中では 0.26±0.01 nmであることが明らかとなった。テラスステップの左右では、Gaサイトが積層欠陥位置と通常結晶位置に区別され、これらの界面ステップが転位状の構造欠陥を形成し、界面準位生成の一因となることが示唆された。これはダングリングボンド以外の界面準位形成メカニズムとして興味深い。
Ga2O3に関しては、「13.7 化合物及びパワーデバイス・プロセス技術・評価」を中心として、「21.1 合同セッションKワイドギャップ酸化物半導体材料・デバイス」の一部を聴講した。
ノベルクリスタルテクノロジーより以下の3件について報告がなされた。
第47回解説論文賞受賞記念講演([16p-W9_324-1]「β型酸化ガリウムの展望:現状と将来」)では、2009年にタムラ光波による研究開発開始、NICTおよび農工大との共同研究参画者の拡大、2015年のノベルクリスタルテクノロジー設立、さらに2017年以降、多様な研究機関からデバイス研究事例の増加など、過去16年間にわたるGa2O3技術開発の進展について包括的な歴史的経緯が示された。質疑応答では、Ga2O3材料の特長として融液成長が可能で、低コストかつ大面積製造が実現できる点が強調された。
β-Ga2O3 トレンチMOS型ショットキーバリアダイオード(MOSSBD)について、従来のパワー性能指数(PFOM)84 MW/cm2から、10 µm厚エピタキシャル層のn型キャリア濃度増加(1E16→4.0E16 cm-3)およびMgイオン注入終端領域とフィールドプレートを組み合わせたセルピッチ2 µm構造により、耐圧1844 VにてPFOM 0.71 GW/cm2への約10倍の性能向上を達成した [18p-W8E_101-5]。質疑応答では、今後の社会実装へのアプローチや、低コスト化が進むSiC製品との差別化戦略について議論された。縦型GaNの開発が他の技術に比べて遅れているため、市場での立ち位置がさらに難しくなったと感じている。
ノーマリーオフ型β-Ga2O3縦型multi-fin FETに関して、従来(2025年応物春季15a-K403-9)で報告されていた約5 kVの耐圧を大幅に上回り、β-Ga2O3 (011)基板上に低ドナー濃度(1.8E15 cm-3)の85 µm厚エピタキシャル膜を適用することで、縦型Ga2O3 FETとして世界最高水準となる10 kV超の耐圧を達成した [18p-W8E_101-9]。
絶縁膜/Ga2O3界面に関する報告は今後増加すると予想していたが、今回の発表では限定的であった。東大工からは、TMAHエッチング処理後のALD-Al2O3/β-Ga2O3 MOS界面特性に関する研究 [18p-W8E_101-7]が報告された。前回の秋季講演会におけるNIMSによる報告[2025応物秋10p-N105-1]と同様、TMAHエッチング処理(60℃・60分)によりステップテラス構造の形成が観察されている。しかし、CV特性のヒステリシスが増大する傾向が認められた。上記のとおりGa酸化膜/GaN界面構造においても、ステップ構造が欠陥準位生成に寄与している可能性が示唆されており、今後さらなる機構解明が期待される。
ダイヤモンド関連の研究については、「6.2 カーボン系薄膜」の一部および「13.7 化合物及びパワーデバイス・プロセス技術・評価」セッションを聴講した。今回の会議では、デバイスに関する発表数が増加した印象を受けた。
パワーデバイス分野において、ラテラル成長技術を適用したステップフリー界面を有する反転層ダイヤモンドMOSFET [15p-WL2_401-1、金沢大ほか] に関する研究では、バンチングステップが界面準位形成の要因となることから、(111)面上でマスクレスプロセスによるn型表面上の核形成を抑制し、高濃度ホウ素ドープによるラテラル成長を実施することで、移動度を従来比5倍(30.6 cm2/Vs)、界面準位密度を従来比1/10(2.9E12 cm-2eV-1)まで低減可能であることが明らかとなった。また、縦型V字トレンチ構造反転層ダイヤモンドMOSFET [15p-WL2_401-2、金沢大ほか] においては、水蒸気とNi酸素固溶反応を利用したエッチング技術によりトレンチ側壁を(111)面で形成し、移動度は1.1 cm2/Vsと低いものの、デバイス動作が実証されている。そのほか、H終端ダイヤモンドMOSFETの大電流化 [15p-WL2_401-3、本田技研・産総研] ならびに、ダイヤモンドFETの耐放射線性 [15p-WL2_401-4, 5、大熊ダイヤモンドデバイス・北大学ほか] についても報告がなされている。
高周波デバイス分野において、先般の秋季講演会で佐賀大学等によって報告されたfmax>120 GHzのダイヤモンドMOSFETに関する後続研究 [17a-W8E_101-4] が発表された。本研究では、ドレイン電圧の増加とともにfmaxが上昇することが確認された。前回指摘されていたfmax/ft比が高い理由については、ゲート電極直下の空乏層がドレイン側へ拡張し、ドレインコンダクタンス(gd)が低減するためと考察されている。また、今後キャリア移動度の向上による特性変化も予想され、さらなる進展が期待される。
フォノンエンジニアリング(GaN-on-diamond)
GaN-on-diamondに関して、2件の研究報告が発表された。三菱電機らによるGaN on Diamond接合デバイスにおける接合層の効果 [15p-WL2_401-6] では、ダイヤモンド上に堆積した膜厚を調整したSiを接合層として使用し、GaNのN面と拡張表面活性化接合法(Extend Surface Activated Bonding: Extend SAB)によって接合した。EDXおよびEELS分析の結果、ダイヤモンド側にはa-Siおよびa-C、GaN側にはSiOxならびにGaOxが形成された。接合層中間にa-Si層が形成されないようにするにはSi膜厚2.8~4.5 nmが最適であるとの報告であったが、熱抵抗に関するデータは提示されていない。以前、筆者らは薄膜金属層を用いたGaN/SiC-on-diamond表面活性化接合について報告している(JJAP 59, SGGD03 (2020), https://doi.org/10.7567/1347-4065/ab5b68)。
また、大阪公立大からは、GaN成長可能なテンプレート基板向けGa極性GaN薄層/Diamond接合 [16a-W8E_101-1] に関する報告がなされた。GaN層を480 nmまで薄層化後、N面側をダイヤモンドと接合する手法であり、接合面積は1000℃まで維持されるが、1100℃で剥離する現象が認められた。テンプレート基板を用いることで結晶成長の自由度が高まるとされるが、筆者はデバイス作製後の接合がより実用的であると考える。
その他
そのほか、「13.5 デバイス/配線/集積化技術」の一部セッションを聴講した。量子コンピュータ制御回路を対象としたCMOSデバイスにおける極低温特性に関する報告件数が増加しており、当該研究分野への注目度の高さが示唆される。
※なお、本文作成にはCopilotを利用した。