2026年6月に調査した最新論文の中で個人的に興味深かった論文を以下に紹介する。
Demonstration of an F-Band Heterogeneously Integrated Multichip Downconverter
C. M. Cooke et al.
Northrop Grumman Corporation (USA)
IEEE Microwave and Wireless Technology Letters, vol. 36, no. 6, pp. 922-925, June 2026
DOI:https://doi.org/10.1109/LMWT.2026.3676704
[要旨]
超高速通信等に使われる極めて高い周波数帯「Fバンド(90–140 GHz)」で動作する受信回路(ダウンコンバータ)モジュールを、最先端のパッケージ技術で開発した。特性の異なる、極微細な35 nm(ナノメートル)インジウムリン(InP)高電子移動度トランジスタ(HEMT)を用いた複数の個別チップ(チプレット)を、1枚の炭化ケイ素(SiC)製の配線基板(インターポーザ)上に集積した。実証実験の結果、回路全体としてミリ波信号をきれいに変換(最小雑音指数3.6 dB)できることを世界で初めて証明した。
[従来研究との新規性]
世界初のFバンドマルチチップ統合: これまでWバンド(75–110 GHz)以下でしか実証されていなかった異種材料チプレット統合技術を、さらに高周波な「Fバンド(90–140 GHz)」において世界で初めて動作実証した点。
35nm InP HEMTとSiCの初融合: 世界最高水準の超低雑音性能を持つ「35 nm InP HEMT」の微細半導体プロセスを、熱に強く高周波特性に優れた「SiC(炭化ケイ素)インターポーザ」にフリップチップ統合した世界初の報告である点。
High-Efficiency X-Band AlGaN/GaN/AlN HEMTs With 64.2% PAE and 6.27 W/mm Continuous Wave Output Power Density
D. Kim et al.
Kyungpook National University(Korea)、Global Communication Semiconductors(USA)、L&D Company Ltd.(Korea)、ETRI(Korea)、Dong-A University(Korea)
IEEE Electron Device Letters, vol. 47, no. 6, pp. 1081-1084, June 2026
DOI:https://doi.org/10.1109/LED.2026.3675266
[要旨]
防衛(レーダー)や人工衛星用途の次世代高効率Xバンド電力増幅器に向けて、高性能なAlGaN/GaN高電子移動度トランジスタ(HEMT)を開発した。従来のドープ(不純物添加)バッファ層に頼る代わりに、SiC(炭化ケイ素)基板上に結晶性の極めて高い「AlN(窒化アルミニウム)バッファ層」をエピタキシャル成長させた。10 GHzでの測定において、ドレイン電圧28 Vの実用的な動作条件下で、電力付加効率(PAE)64.2%、出力電力密度6.27 W/mmという、1.3μm AlNバッファを採用したデバイスとして世界最高水準の極めて高い効率と出力を実証した。
[従来研究との新規性]
AlNバッファ構造で過去最高の効率・出力の両立: 本研究のAlNバッファ採用HEMTは、従来の報告例(例えばPAEが20%台に留まっていたものなど)を大幅に凌駕し、20 Vおよび28 V動作において世界トップクラスの効率と電力密度を同時に達成した点。
不純物フリーでの高バイアス動作の実証: 深いアクセプタ(FeやC)のドープを一切行わないピュアなAlNバッファの結晶性を高めることで、高電界・高電圧の過酷な条件下でも「リーク遮断」と「トラップ完全抑制」を両立できる構造を実証した点。
Ultra-Wide Bandgap AlN/AlGaN/AlN-on-SiC HEMT With Record-High Thermal Performance
S. Kim et al.
The Pennsylvania State University, Cornell University (USA)
IEEE Electron Device Letters, vol. 47, no. 6, pp. 1177-1180, June 2026
DOI:https://doi.org/10.1109/LED.2026.3684862
[要旨]
次世代の電力変換や無線通信に向け、極めて高い電圧に耐えられる「ウルトラワイドバンドギャップ(UWBG)AlGaN半導体」を用いた高電子移動度トランジスタ(HEMT)を開発した。素材(AlGaN)の性質上、熱がこもりやすく壊れやすいという致命的な弱点を克服するため、チャネル層を極限まで薄くし、熱を逃がしやすいAlN(窒化アルミニウム)バッファとSiC(炭化ケイ素)基板を組み合わせた新プラットフォームを構築した。実測とシミュレーションの結果、現在の主流であるGaN-on-SiCよりもチャンネル温度の上昇を約20%も低く抑えるという、過去最高の放熱特性を実証した。
[従来研究との新規性]
GaN-on-SiCの壁を越えた初のUWBG: これまで「熱的にGaNより絶対に劣る」とされてきたAlGaNデバイスにおいて、構造設計の工夫により現在の最高峰であるGaN-on-SiCの熱特性を世界で初めて追い抜いた(20%低温化)点。
極薄チャネルとAlNバッファの最適融合: 熱源(チャネル)を25 nmまで薄くして熱の通り道を最短にし、熱伝導率が非常に高い純粋なAlNバッファ層へ瞬時に熱を逃がすという、具体的な結晶レイヤー構成とその熱的有効性を完全に実証・理論化した点。
Wafer-scale N-polar GaN-on-SiC by Direct Bonding Epitaxial Layer Transfer for HEMTs
B. Guo et al.
University of Science and Technology of China、Chinese Academy of Sciences、Enkris Semiconductor Inc.(China)
2026 IEEE 38th International Symposium on Power Semiconductor Devices and ICs (ISPSD), Las Vegas, NV, USA, 2026, pp. 217-220
DOI:https://doi.org/10.1109/ISPSD64561.2026.11553946
[要旨]
高周波・高出力デバイス(HEMT)に向けて、6インチという大口径な「N極性GaN-on-SiC」材料プラットフォームを開発した。高品質なGa極性(表側)ウェハをSiC(炭化ケイ素)基板へ直接接合して裏返し、元の基板を削り取る「エピタキシャル層転写(ELT)」プロセスを構築した。独自の2段階化学機械研磨(CMP)の導入により、ウェハ全体の厚みムラを約2%に抑え、表面粗さ0.17 nmという極めて平滑なN極性結晶層を実現し、トランジスタ(HEMT)の作製・動作に成功した。
[従来研究との新規性]
6インチというウェハスケールでの実証: これまで小片サンプルや小口径での報告に留まっていた直接接合によるN極性GaNの作製を、世界で初めて「実用的な6インチ(大口径ウェハ)サイズ」で実証し、98%以上の高い接合率を達成した点。
2段階CMPによる超精密な薄型化制御: 選択比35:1という卓越した研磨技術(2段階CMP法)を導入することで、結晶へダメージを与えることなく分厚い不要バファ層を均一に削り落とし、わずか100 nm超の薄型チャネル層を高精度に露出・制御させる量産直結の製造プロセスを確立した点。
High-Performance MBE-Grown N-Polar GaN HEMTs on Bulk GaN With Simplified Backbarrier
O. Odabasi et al.
University of California Los Angeles、University of California, Santa Barbara、University of Michigan(USA)
IEEE Electron Device Letters, vol. 47, no. 6, pp. 1073-1076, June 2026
DOI:https://doi.org/10.1109/LED.2026.3687220
[要旨]
5G/6G通信や高出力アンプへ向け、結晶欠陥の極めて少ない「バルクGaN基板」の上に、分子線エピタキシー(MBE)法を用いて高品質な「N極性GaN HEMT」を作製した。従来のMOCVD法で作るN極性デバイスは、構造が複雑(シリコンドープや傾斜組成アロイが必要)だったが、本研究では結晶品質を高めることで「不純物のない簡素なAlGaN」のみのバックバリア構造を実現した。150 nmのゲート長において、10 GHzで出力電力密度 7.2 W/mm、電力付加効率(PAE)48%という極めて優れた高周波・高出力特性を達成し、製造のしやすさを劇的に向上させた。
[従来研究との新規性]
構造の圧倒的な簡素化と高性能の両立: N極性GaNの歴史において、これまで必須とされていた「ドープ技術や傾斜層」を一切排除した最もシンプルなバックバリア構造でありながら、従来の複雑なデバイスに匹敵・凌駕する7.2 W/mmという高出力を実証した点。
MBEによるバルクGaN上N極性の初の高周波実証: 高品質なバルクGaNとMBE法の組み合わせにより、漏れ電流をnAレベルに抑え込みつつ、fmax 200 GHz超えの超高速性と、10 GHzでの高い電力効率(48%)を一挙に同時達成した点。
N-Polar GaN HEMT With Deep Wet Etched Recess Demonstrating Record G-Band Performance at 170 GHz
E. Akso et al.
University of California, Santa Barbara(USA)
IEEE Electron Device Letters, vol. 47, no. 6, pp. 1069-1072, June 2026
DOI:https://doi.org/10.1109/LED.2026.3685566
[要旨]
6G通信などの超高周波用途に向けて、170 GHz(Gバンド)で世界最高の出力特性を持つ新しい「N極性GaN高電子移動度トランジスタ(HEMT)」を開発した。クエン酸を用いた「完全ウェットエッチング」技術を開発し、結晶を傷つけることなく「AlGaNキャップ層」を綺麗に除去した。これにより、ゲート電極を電子の通り道(GaNチャネル)へ直接、深く埋め込む新構造(ディープリセス)を確立した。ゲート長67 nmのデバイスにおいて、170 GHz動作で出力電力密度 2.1 W/mm、電力付加効率(PAE)17.4%という、GバンドにおけるGaN半導体として過去最高の実績を叩き出した。
[従来研究との新規性]
Gバンド(170 GHz)における世界最高パワーの更新: 140 GHz超の極限の高周波領域において、従来のGaNアンプの限界(1 W/mm前後)を遥かに超越する「2.1 W/mm」という圧倒的な出力密度を世界で初めて実証した点。
完全ウェットエッチングによるディープリセス構造の確立: プラズマダメージを100%排除した「クエン酸ウェットプロセス」を開発し、N極性GaN特有の結晶構造を最大限活かして、ゲートをチャネル直上にノーダメージで埋め込む革新的な製造手法を確立した点。
4.3-kV Fully Vertical β-Ga2O3 Heterojunction Barrier Schottky Diode With Sputtered p-GaN
Q. Chang et al.
Xidian University(China)
IEEE Transactions on Electron Devices, vol. 73, no. 6, pp. 3456-3462, June 2026
DOI:https://doi.org/10.1109/TED.2026.3687817
[要旨]
電気自動車や次世代送電網の省エネ化に向けて、圧倒的な高電圧に耐えられる次世代パワー半導体「β-Ga2O3(酸化ガリウム)」の縦型ダイオードを開発した。コストが安く大面積化しやすい「スパッタ法」を用いて、高品質な「p型GaN(窒化ガリウム)」をトレンチ(溝)構造に埋め込んだヘテロ接合バリアショットキー(HJBS)構造を構築した。破壊耐圧4335 V(約4.3 kV)という驚異的な高耐圧と、低いオン抵抗(6.79 mΩ・cm2)を両立し、パワー半導体の性能指数(BFOM)で2.77 GW/cm2という世界最高水準の極めて優れた数値を実証した。
[従来研究との新規性]
スパッタ製法による過去最高の耐圧・BFOMの更新: 高価な結晶成長装置(MOCVDなど)を使わず、産業的に普及している安価な「スパッタ法」によるp-GaN採用デバイスとして、世界最高となる4.33 kVの耐圧と 2.77 GW/cm2 の性能指数を同時に達成した点。
トレンチ埋め込みHJBSの完全縦型実証: β-Ga2O3の表面にただ膜を載せるだけでなく、「溝(トレンチ)の中にスパッタp-GaNを埋め込む」という複雑な立体構造(HJBS)を高い均一性で作り上げ、縦型パワーデバイスとして完璧に動作させた点。
BV > 3 kV and Low Turn-On Voltage β-Ga2O3 Vertical Schottky Barrier Diodes With PIN Edge Termination
P. Dong et al.
Xidian University、Nanjing University(China)、King Abdulaziz University(Saudi Arabia)
IEEE Transactions on Electron Devices, vol. 73, no. 6, pp. 3799-3804, June 2026
DOI:https://doi.org/10.1109/TED.2026.3685630
[要旨]
次世代の超高電圧パワーエレクトロニクスに向けて、高い破壊耐圧(BV)と低いオン状態立ち上がり電圧(Von)を両立させた縦型 β-Ga2O3(酸化ガリウム)ショットキーバリアダイオード(SBD)を開発した。窒素・リン(N-P)の共イオン注入技術と、2層構造の酸化ニッケル(p-NiOx)層を融合させた独自の「PINエッジ終端(ET)」構造を電極の角に導入した。これにより、電極端への電界集中を完璧に緩和し、耐圧 3 kV超、低い立ち上がり電圧 0.7 V、低オン抵抗 3.4 mΩ・cm2を達成、パワー性能指数(P-FOM)で 2.64 GW/cm2という世界最高水準のバランスを実証した。
[従来研究との新規性]
N-P共イオン注入と2層NiOxによる初のPIN終端: 酸化ガリウムデバイスにおいて、低コストな「N-P共イオン注入」と「2層p-NiOx」を組み合わせた画期的なPINエッジ終端構造を世界で初めて提案・実証した点。
低立ち上がり電圧(<1 V)での世界最高水準のP-FOM: 立ち上がり電圧を 0.7 V という低損失レベルに抑えた酸化ガリウムダイオードの中で、耐圧 3 kV・性能指数 2.64 GW/cm2という、トップクラスの低ロス・高耐圧バランスを達成した点。
A Micro-3D Printed Helix Structure for sub-THz Antenna-on-Chip Modules
G. Soto-Valle, N. Roeske, T. W. Callis, M. Joshi and M. M. Tentzeris
Georgia Institute of Technology (USA)
2026 IEEE 76th Electronic Components and Technology Conference (ECTC), Orlando, FL, USA, 2026, pp. 184-189
DOI:https://doi.org/10.1109/ECTC51846.2026.00037
[要旨]
100 Gbpsに迫る次世代超高速通信(6Gなど)を見据え、100 GHzを超える「サブテラヘルツ(sub-THz)帯」で動作する、世界初のマイクロメートルスケールの金属3D印刷製「立体ヘリカル(らせん型)オンチップアンテナ」を開発・実証した。独自の「局所電気化学堆積」方式により、サブミクロン(1万分の1ミリ以下)の超精密な位置合わせ精度で、チップの給電線上にダイレクトに立体的な銅のらせんアンテナを形作った。シミュレーションおよび試作の結果、最大10.5 dBiという高い利得(電波を前方へ強く飛ばす性能)と、150 GHzから330 GHzに及ぶ超広帯域動作を達成した。
[従来研究との新規性]
サブテラヘルツ帯アンテナへの金属3D印刷の初適用: これまでデジタル配線や高周波の「インターコネクト(接続線)」用途に限定されていたマイクロ金属3D印刷技術を、初めて「電波を放射する3次元アンテナそのもの」の製造に適用し、動作実証した点。
数百ミクロン規模の巨大らせんの安定製造: 本来マクロな(大きい)加工が苦手な FluidFM 方式において、構造力学モデル(Hookeの法則)を導入してワイヤ径とバネ定数を最適化することで、これまで不可能だった「直径数百ミクロン・高さ1ミリ超」の巨大な自立型立体構造をノーミスで印刷・整列させた点。
Technology for Sequential Integration of HPA and LNA on Stacked GaN Layers for 3D Packaging of Next Gen Miniaturized Power RF Transceiver Front Ends
K. Zoschke et al.
Fraunhofer IZM(Germany)、Foundation for Research & Technology Hellas、Aristotle University of Thessaloniki、Circuits Integrated Hellas SA(Greece)他
2026 IEEE 76th Electronic Components and Technology Conference (ECTC), Orlando, FL, USA, 2026, pp. 2278-2285
DOI:https://doi.org/10.1109/ECTC51846.2026.00377
[要旨]
航空機向け次世代レーダーなどの小型・軽量化および省電力化(SWaP改善)に向け、高出力アンプ(HPA)と低ノイズアンプ(LNA)を立体的に重ねる「3D Sequential Integration(3DSI)」技術を提案した。すでにHPAを作り込んだ1層目のGaN(窒化ガリウム)ウェハの上に、極薄化した2層目のGaNレイヤーを永久接着(BCB接合)で重ねるプロセスを構築した。貫通電極(TSV)を持つシリコンインターポーザをAuSn半田で接合して全体を密閉(封止)し、100 mmウェハを用いたテスト回路によって良好な電気的導通とトランジスタ動作を実証した。
[従来研究との新規性]
GaNパワー半導体への3DSIの初適用: これまでデジタルプロセッサの超高密度化(LETI等の研究)に限定されていた3DSIプロセスを、世界で初めて「高周波パワーGaN半導体(MMIC)」に適用し、異種レイヤーの積層・駆動を達成した点。
TSVインターポーザを通じた初の一括RF評価: 立体的に積み上げたGaN積層チップをシリコンTSV基板越しに電気計測し、モノリシック集積された3Dスタック内の受動部品のRF continuity(導通性)を完全に実証・データ化した世界初の報告である点。
BCB接着層の思わぬメリット: 分析の結果、下層のHPAの熱は高熱伝導なSiC基板(裏面)へ逃げていくため上方向への伝熱は限定的であり、さらに層間のBCB樹脂層が「断熱材」として機能して敏感なLNAを熱から守る(熱デカップリング効果)役割を果たすことが判明した。
※なお、翻訳・要約にはGeminiアプリを活用した。