2026年7月に調査した最新論文の中で個人的に興味深かった論文を以下に紹介する。
A 4 W Heterogeneous Power Amplifier With Gan-On-Si Dielets in Single-Crystal Diamond Interposer for 6G Fr3 Applications
P. Yadav, X. Li, D. A. Baig, R. Han, M. Swaminathan and T. Palacios
Massachusetts Institute of Technology(MIT)、Georgia Institute of Technology、Pennsylvania State University(USA)
2026 IEEE Radio Frequency Integrated Circuits Symposium (RFIC), Boston, MA, USA, 2026, pp. 411-414.
DOI:https://doi.org/10.1109/RFIC70222.2026.11602311
[要旨]
6G通信の「FR3帯(7–24 GHz領域)」に向け、熱伝導率が世界最高の「単結晶ダイヤモンド」基板(インターポーザ)にGaN(窒化ガリウム)パワー素子を埋め込んだ異種材料統合(ヘテロジニアス統合)パワーアンプを開発した。商用のGaN-on-Siウェハからフェムト秒レーザーで切り出した極小トランジスタ(ダイレット)を、ダイヤモンドに彫った窪みに埋め込み、2層の再配線層(RDL)で配線した。10 GHzにおいて最大出力 4 W(36.1 dBm)、電力付加効率(PAE)49.1%という、異種統合されたGaNアンプとして過去最高の出力を実証した。
[従来研究との新規性]
単結晶ダイヤモンド基板によるGaNダイレット統合の初実証: 高価で加工が困難だった単結晶ダイヤモンドをパッケージ基板(インターポーザ)として加工し、個別に切り出した微細GaN素子を埋め込んで動作させた世界初の報告である点。
異種統合型GaNアンプとして過去最高のパワーと効率の更新: ガラスやシリコン基板を用いた従来の異種統合アンプ(出力0.1〜0.3 W程度)を凌駕し、4 W(36.1 dBm)という圧倒的な高出力と 49.1% の高効率を同時に達成した点。
Hetero-Integration of Bipolar InP Chiplets on BiCMOS for Broadband Applications within the EU-Funded APECS Pilot Line
W. Heinrich et al.
Ferdinand-Braun-Institut (FBH)(Germany)
2026 26th International Microwave and Radar Conference (MIKON), Kraków, Poland, 2026, pp. 254-257.
DOI:https://doi.org/10.23919/MIKON66970.2026.11577913
[要旨]
欧州の半導体主権を目指す「European Chips Act」傘下のAPECSパイロットラインプロジェクトの一環として、超高周波・高出力なInP(インジウム燐)HBTチップレットをSiGe-BiCMOSチップ上にフリップチップ接合する異種統合(ヘテロジニアス集積)プラットフォームを開発した。微細なインジウム(In)マイクロバンプ(数10 µm幅)を用いることで、300 GHzまで挿入損失 0.5 dB未満という極低損失な接続を達成した。400 nmプロセスのInP HBT素子を用いて、最大200 GHzの動作帯域幅を持つ超広帯域アンプモジュールを設計・実証し、Dバンド(110–170 GHz)無線通信や光通信モジュールへの適用性を決定づけた。
[従来研究との新規性]
EU主導APECSパイロットラインによるオープンな異種統合基盤の確立: 国幹プロジェクト(APECS)のもと、FBH(InP担当)とIHP(BiCMOS担当)の最先端プロセスを融合させ、外部パートナーも利用可能な300 GHz超対応のInP-on-BiCMOSパイロットラインを確立した点。
200 GHz超の超広帯域・高出力チップレット実装の実証: シリコンパッケージ(SiP)等の従来の寄生容量問題を克服し、300 GHzまで機能する極細インジウムバンプで200 GHz幅のアンプ駆動を成功させた点。
High Power Density Millimeter-Wave Ultra-Thin InGaN Channel DH-HEMTs
H. Lu et al.
Xidian University、Enkris Semiconductor Inc.(China)
IEEE Electron Device Letters, vol. 47, no. 7, pp. 1286-1289, July 2026.
DOI:https://doi.org/10.1109/LED.2026.3697835
[要旨]
5G/6Gミリ波通信に向け、ゲートリセス酸化プロセス(RGO)を用いた超薄型インジウムガリウム窒化物(InGaN)チャネル二重ヘテロ構造高電子移動度トランジスタ(DH-HEMT)を開発した。ソース・ドレイン間距離 2 µmのデバイスで 76 V という高破壊耐圧と、電流コラプス率8.1%という極めて高い動作安定性を実現した。30 GHzの大信号パワー測定において、ドレイン電圧Vds=28Vで 9.6 W/mm という極めて高い飽和出力密度、および Vds=14Vで 48.54% の電力付加効率(PAE)を実証した。
[従来研究との新規性]
InGaNチャネルDH-HEMTでの最高レベルのミリ波(30 GHz)パワー密度の達成: これまで実測例が極めて少なかったInGaNチャネル素子において、30 GHzで 9.6 W/mm というトップクラスの出力密度と 48.54% の高PAEを初めて実証した点。
リセスゲート酸化(RGO)プロセスの適用による短チャネル効果と電流コラプスの同時克服: 超薄型InGaNチャネルとRGOプロセスの融合により、ミリ波帯動作における利得圧縮と電流コラプス(8.1%に抑制)を劇的に改善させた点。
筆者関連論文:N. Okamoto et al., “MOCVD-grown InGaN-channel HEMT structures with electron mobility of over 1000cm2/Vs”, J. Crystal Growth vol. 272 (2004) pp. 278-284.
DOI: https://doi.org/10.1016/j.jcrysgro.2004.08.071
INFINITY: A 45-310 GHz InP-FinFET CMOS Co-packaged Sliding-IF Transmitter with On-Chip Resonant Cavity Antenna
B. Gungor, S. Gielen, Y. Zhang, M. Ingels and P. Reynaert
KU Leuven、imec(Belgium)
2026 IEEE Radio Frequency Integrated Circuits Symposium (RFIC), Boston, MA, USA, 2026, pp. 67-70.
DOI:https://doi.org/10.1109/RFIC70222.2026.11602269
[要旨]
AIデータセンター等の超高速通信に向け、16 nm FinFET CMOSと 250 nm InP DHBT(インジウム燐)の異なる半導体を同一PCB上に直接合体(フリップチップ異種統合)させた 245–310 GHz帯送信機を開発した。チップ間の信号伝送周波数を 65–95 GHz に抑える「スライディングIF」方式を採用し、接続部分での電波減衰(移行損失)を 5 dB 以上劇的に削減した。試作回路は 267 GHz でピークEIRP(等価等方放射電力)14.6 dBmを達成し、26 cm の空中伝送(OTA)で最大 40 Gbps(16-QAM)という、オンチップアンテナ搭載型200 GHz超送信機として過去最高の送信性能を実証した。
[従来研究との新規性]
オンチップアンテナ型200 GHz超送信機で世界最高の単一素子EIRP(14.6 dBm): 従来のCMOS単体やInPハイブリッドの記録を大幅に更新し、アンテナ内蔵型として過去最大の電波照射パワーを達成した点。
スライディングIFによるInP-CMOS移行損失の劇的克服: 従来型ハイブリッドの最大の弱点であった「チップ間接続での超高周波ロス」を、異種周波数マッピング(スライディングIF)によって5 dB以上低減・克服した点。
Low-Loss D-Band Power Divider Using SiC-Based SIWs
W. Wu et al.
University of Notre Dame、Cornell University(USA)
IEEE Transactions on Components, Packaging and Manufacturing Technology, vol. 16, no. 7, pp. 1611-1618, July 2026.
DOI:https://doi.org/10.1109/TCPMT.2026.3682269
[要旨]
6G通信の本命帯域であるDバンド(110–170 GHz)向けに、100 µm厚の4H-SiC(炭化ケイ素)基板を用いた「基板一体型導波路(SIW)」技術による極低損失な電力分配器を開発・実証した。フェムト秒レーザー加工で形成した基板貫通ビア(TSV)を用いて、Y分岐型およびT分岐型のふたつの立体構造回路をチップ上で作製した。評価の結果、全Dバンドにわたり過剰損失(EL)は僅か 0.68±0.10 dB、平均反射損失(RL)は最大 25 dBという非常に優れた高周波特性を達成した。
[従来研究との新規性]
SiC基板を用いたDバンドSIW電力分配器の実作・世界初実証: これまでPCBやバルク金属でしか作れなかったSIW分配器を、100 GHz超のDバンドにおいて超薄型SiC基板上で世界で初めて試作し、実測データを提示した点。
100 GHz超のオンチップ分配器としてトップクラスの低損失・広帯域特性: 全Dバンド(115–165 GHz)で過剰損失 1 dB未満と入力反射 24 dB以上を同時に達成し、既存のシリコンやInP上の分配器を凌駕する総合性能を示した点。
Power Performance of Heterointegrated InP-HBT Amplifier Chiplets on BiCMOS Carrier
M. Hossain et al.
Ferdinand-Braun-Institut (FBH)、IHP - Leibniz-Institut für innovative Mikroelektronik(Germany)
2026 26th International Microwave and Radar Conference (MIKON), Kraków, Poland, 2026, pp. 1-4.
DOI:https://doi.org/10.23919/MIKON66970.2026.11577797
[要旨]
6Gなどのミリ波通信に向け、InP(インジウム燐)DHBTパワーアンプ(PA)チップレットをSiGe-BiCMOSキャリア基板上にフリップチップ実装する異種統合(ヘテロ集積)技術を実証した。インジウム系マイクロバンプを用いることで、300 GHz超まで極低損失かつ回路の離調(ディチューニング)がほぼ生じない高精度な接合を達成した。80 GHz(Wバンド)において、飽和出力電力 +13 dBm、消費電力 42 mW、電力付加効率(PAE)17%という優れた大信号パワー特性を、実測データとして世界で初めて報告した。
[従来研究との新規性]
BiCMOS上のInP-HBT能動アンプにおける「大信号パワー特性」の初実証: これまで小信号特性の報告にとどまっていたInP-on-BiCMOS異種統合技術において、実際に大電力(+13 dBm)を叩き出す大信号パワー動作を世界で初めてデータ実証した点。
既存のシリコン/化合物製造ラインを変更しない高拡張性アプローチの確立: 既存のBiCMOSおよびInPプロセスを一切変更せず、最後のアセンブリ(低温インジウム接合)のみで300 GHz超対応の超高周波モジュールを安定製造できる路を切り拓いた点。
Vertical GaN Schottky Barrier Diodes With Polarized P-InGaN/P-GaN Heterojunction Termination Extension Structure
B. Zhao, L. Chai, W. Wang, N. Liu and L. Li
Tianjin University、Guangdong Academy of Sciences, Institute of Semiconductors(China)
IEEE Electron Device Letters, vol. 47, no. 7, pp. 1330-1333, July 2026.
DOI:https://doi.org/10.1109/LED.2026.3697516
[要旨]
垂直型GaN(窒化ガリウム)ショットキーバリアダイオード(SBD)の高耐圧化に向け、p-InGaN/p-GaN分極ヘテロ接合(PolHJ)を用いた新しいジャンクション終端拡張(JTE)構造を提案・実証した。ヘテロ界面の分極電荷が逆バイアス時に空乏層を外側へ拡張させ、アノード端部への電界集中を劇的に緩和するメカニズムを解明した。試作デバイスは破壊電圧(BV)約355 Vを達成し、JTEなしの素子と比べて 203 V(133%)、単層p-GaN JTE素子と比べて 147 V(70%)もの大幅な耐圧向上を実現した。
[従来研究との新規性]
2DHGを生成する分極ヘテロ接合(PolHJ)を垂直型GaN SBDのJTE構造へ世界初適用: 従来は横型デバイス(HEMT等)で使われていた分極効果(2DHG)を、垂直型ダイオードの末端電界緩和技術として初めて導入・実証した点。
外部不純物注入に頼らない自発的な空乏層拡張技術の提示: 導入が困難な高濃度p型注入技術を使わずに、結晶成長時の積層構造(InGaN/GaN)による分極電荷のみで従来比1.7〜2.3倍の破壊電圧向上を達成した点。
筆者関連特許:特許第5561371号 半導体装置及びその製造方法
Vertical GaN-on-GaN finFETs: Effect of SiNx Spacer Layer on Breakdown Voltage and Device Stability Under Gate Bias Stress
C. Zhang et al.
University of Bristol、Dynex Semiconductor Ltd.(UK)
IEEE Transactions on Electron Devices, vol. 73, no. 7, pp. 4037-4043, July 2026.
DOI:https://doi.org/10.1109/TED.2026.3694359
[要旨]
垂直型窒化ガリウム(GaN)finFETにおいて、フィン溝(トレンチ)底面に配置する SiNx絶縁スペーサー層が、高耐圧化とゲート信頼性(しきい値電圧安定性)に及ぼすトレードオフ(相克関係)を解明した。SiNxスペーサーの導入により、オン特性を損なうことなく、OFF状態の破壊電圧を24 V から 950 V 超へと 35 倍以上跳ね上げることに成功した。一方で、PECVD(プラズマ化学気相成長)によるダメージがゲート絶縁膜(Al2O3)内に高密度なトラップ(欠陥)を生成し、正・負のゲートバイアスストレス下でしきい値電圧(Vth)の大幅な変動を引き起こすことを明らかにした。
[従来研究との新規性]
SiNxスペーサー層導入による「性能(高耐圧)と信頼性(ゲート不安定性)」の相克(トレードオフ)の解明: 単に耐圧(1 kV級)を向上させるだけでなく、それと引き換えになる物理的欠陥メカニズムを定量的に裏付けた点。
トンネルフロントモデルを用いた過渡的トラップ分布とNBI暴走(Runaway)現象の特定: プラズマダメージが誘発するゲート絶縁膜内部のバルクトラップ密度と、負バイアス下での電界加速型暴走劣化(ポジティブフィードバック)を明確に可視化した点。
X-Band GaN HEMTs on Diamond Substrate With Record RF Output Power Density of 25 W/mm and Low Channel Temperature
X. Zhou et al.
Hebei Semiconductor Research Institute(China)
IEEE Transactions on Electron Devices, vol. 73, no. 7, pp. 4383-4387, July 2026.
DOI:https://doi.org/10.1109/TED.2026.3691328
[要旨]
室温ウェハ接合法を用い、多結晶ダイヤモンド(PCD)基板上に高性能なAlGaN/GaN HEMTを作製した。熱境界抵抗(TBR)を最小化するため、厚さわずか 約17 nm の極薄な接合界面を実現した。10 GHz(Xバンド)のパルスロードプル測定にて25.28 W/mm というダイヤモンド基板上GaN素子として世界記録の出力密度(PAE 33.43%)を達成した。31.5 W/mm の直流電力印加時において、従来のSiC基板素子と比較してチャネル温度の上昇を約150℃削減した。
[従来研究との新規性]
ダイヤモンド基板上GaN HEMTにおける10 GHz(Xバンド)最高出力密度(25.28 W/mm)の達成: これまでの同種素子の記録(10 GHz帯で11 W/mm程度)を2倍以上更新した点。
17 nmの超薄型接合層による54.6%の熱抵抗削減: 室温接合法の弱点であった接合界面の熱抵抗(TBR)を極限まで減らし、SiC比で150℃もの大幅な降温効果を実証した点。
筆者関連論文:T. Ohki et al., “An Over 20-W/mm S-Band InAlGaN/GaN HEMT With SiC/Diamond-Bonded Heat Spreader”, IEEE Electron Device Letters 40 (2019) 287-290.
DOI: https://doi.org/10.1109/LED.2018.2884918
※なお、翻訳・要約にはGeminiアプリを活用した。