2026/9/8-11に開催された2026年第87回応用物理学会秋季学術講演会(北海道大学 札幌キャンパス)にオンライン参加した。個人的に興味深かった発表を以下に示す。
GaNに関しては、「13.7 化合物及びパワーデバイス・プロセス技術・評価」のセッションを中心に「15.4 III-V族窒化物結晶」の一部のセッションを受講した。
デバイスに関して、以下の発表について紹介する。
三菱電機から、GaN HEMTのRF大信号動作時におけるチャネル温度評価について報告があった[10p-A21-3]。ソースフィールドプレートの抵抗を温度センサとして用い、RF大信号動作中のチャネル温度を評価している。電力付加効率(PAE)と温度(T)のコンター図は、両者が明瞭に反転した関係を示していた。質疑応答では、実際のチャネル温度と表面温度の差、周波数依存性などについて質問があった。一般にソースフィールドプレートにはAuが用いられることが多いため、抵抗値の変化を十分に検出できるのか疑問が残る。材料を変更している可能性もある。
住友電工から、GaN HEMTの放熱性向上を目的としたAlN層間絶縁膜の適用について報告があった[10p-A21-4]。パルス印加時のdroop抑制には熱源近傍での放熱が重要であるため、多結晶ダイヤモンド(PCD)より低温で成膜可能なAlN絶縁膜を採用した。従来のSiNとAlNで、ショットキー特性およびId-Vd特性に差は見られなかった。一方、熱インピーダンス(Zth)の解析では、AlNを層間絶縁膜に用いたデバイスで、SiN適用デバイスに比べてZthの低減が確認された。質疑応答では、成膜方法、寄生容量、熱伝導率、分極発生などについて質問があった。AlNの成膜方法は開示されていないが、筆者の知見では、十分に結晶化していなければAlN膜の熱伝導率は高くても2桁台(W/mK)程度にとどまると考えられる。
住友電工からは、N極性GaN HEMTにおける電流コラプスのバッファ不純物濃度依存性についても報告があった[10p-A21-8]。N極性GaNは結晶成長中に酸素(ドナー)を取り込みやすいため、バッファの高抵抗化を目的にカーボン(C)が添加されている。本報告では、N極性GaN HEMTの電流コラプスに対するバッファ層C濃度の影響が調査された。バッファ層厚は400 nmで、C濃度は1.5E16、1.0E17、2.0/1.0E17 cm-3である。ゲートバイアス>VthからのパルスIVでは、C濃度の増加に伴い電流コラプスが増大した。これは、ホットエレクトロンがバッファ障壁を越えるためと説明された。さらに、トラップ準位をフェルミレベルより低くする目的で、50 nm n-GaN (Si濃度1.0E18 cm-3)/C濃度1.0E17 cm-3の二層構造を導入することで、電流低下が抑制されたとのことである。
分極ドーピングに関して、以下の発表について紹介する。
名城大学らは、高AlNモル分率のMg無添加分極ドープAlGaNについて、電気的特性評価の結果を報告した[9p-N101-3]。850℃の低温成長における正孔形成機構を明らかにするため、室温から80 Kまでの温度範囲でホール測定を行い、正孔濃度を評価した。さらに、室温でのC-V測定から負の固定電荷密度を導出した。分極ドーピングに由来する正孔であれば、固定電荷密度と正孔濃度は一致し、正孔濃度に温度依存性は現れない。測定の結果、850℃成長では室温において固定電荷密度と正孔濃度が一致した(4E18cm-3)一方、1000℃成長では固定電荷密度が正孔濃度を上回った。ただし、850℃成長でも80 Kでは正孔濃度が1E18cm-3まで低下したことから、分極電荷以外に由来する正孔も存在すると考えられる。それでも、分極電荷に由来する正孔は少なくとも1E18cm-3程度存在すると見積もられる。
プロセス・デバイスに関して、以下の発表について紹介する。
北大量集センターらは、AlNチャネル層上の高Al組成(x>0.4)AlxGa1-xN層に対する光電気化学(PEC)エッチングについて報告した[8a-A21-6]。AlNチャネルFETのゲートリセス形成には、組成傾斜AlxGa1-xN (x > 0.4)オーミックアシスト層を低ダメージかつ選択的にエッチングする技術が求められる。エッチング液として中性溶液と酸性溶液(硫酸+リン酸)を用い、波長280 nmのパルス光(8 mW/cm2、デューティ比50%、10 Hz)を照射したところ、光電流が確認された。中性溶液では酸化膜が形成され、続くTMAH処理によりエッチングが進行した(エッチングレート0.083–0.125 nm/min)。一方、酸性溶液では初期段階からエッチングが進み、エッチングレートは0.292 nm/minであった。エッチング後の表面平坦性は、通常のGaNに比べて劣るとの説明があった。
東大生研から、スパッタ法を用いたオーミックコンタクトに関する報告があった。紫外LEDおよびAlGaNチャネルHEMTのノンアロイオーミックコンタクトを想定し、0.2–0.3 µm厚のSi添加Al0.65Ga0.35N薄膜(n=8.6E19 cm-3)上に、in-situスパッタ堆積したTi(室温、10–15 nm)の構造特性を評価した[8p-N101-1]。これまでに接触抵抗率3E-6 Ωcm-2が得られている。RHEED評価から、室温でin-situスパッタ堆積したTiはランダムな多結晶膜ではなく、hcp構造の[0001]配向エピタキシャル膜として形成されることが示された。さらに、InAlN/GaN HEMTに対するスパッタ再成長縮退GaN(d-GaN)オーミックコンタクトについても報告された[8p-N101-2]。スパッタ膜を用いたオーミックコンタクト技術として、今後の展開が注目される。
北大量集センターらは、m面AlSiO/GaN界面におけるAlN挿入層の効果について報告した[10a-A21-4]。縦型GaN MOSFETでは非極性面にチャネルが形成されるため、極性c面および非極性m面のn-GaN自立基板上に形成した40 nm AlSiO/n-GaN界面について、2 nm厚のAlN界面挿入層(IL)の有無を比較した。光アシストC–V測定により、ミッドギャップ付近から価電子帯側にかけての界面準位密度(Dit)分布を評価した結果、いずれの面でもAlN ILの挿入によりDitが低減した。また、AlN ILの有無にかかわらず、m面試料はc面試料よりミッドギャップ付近の準位密度が低かった。さらに、AlN ILを挿入したm面試料では、c面試料に比べてフラットバンド電圧の負シフトが抑制されており、m面により分極の影響が低減された可能性がある。加えて、豊田中研らからは、AlSiO/AlN/p型GaN MOSFETにおけるドレイン電流モデルを用いた界面状態評価[10a-A21-6]、およびMOS界面でのキャリア捕獲に対するチャネル垂直電界の影響[10a-A21-7]について報告があった。
Ga2O3に関しては、「13.7 化合物及びパワーデバイス・プロセス技術・評価」を中心として、「21.1 合同セッションKワイドギャップ酸化物半導体材料・デバイス」の一部を聴講した。
三菱電機らから、縦型β-Ga2O3 SBDのサージ電流耐量評価とその面方位依存性について報告があった[8p-E301-17]。(001)面および(010)面エピ基板上に作製した縦型SBD(エピ膜厚10 μm、キャリア濃度≒1E16 cm-3)を比較した結果、(010)面基板の方が(001)面基板より高いサージ電流耐量を示した。これは、デバイスの放熱性、すなわち熱伝導率の違い([010]方向24.3 W/mK>[001]方向14.1 W/mK)に起因すると結論付けられている。
大阪公立大らから、高耐熱電極を用いた自己整合ゲートβ-Ga2O3 MOSFETが報告された[11p-A21-5]。ドライエッチングで形成した20 nm Ni/240 nm WゲートをマスクとしてSiを注入し、925℃・2 minで活性化した。その結果、オン抵抗(Ron)およびサブスレッショルド・スイング(SS)は改善した一方、閾値電圧(Vth)は大きく負側へシフトした。これは、活性化アニールによりSiO2ゲート絶縁膜からSiが拡散した可能性があるとのことである。GaAs MESFETと類似したプロセスであり、過去の知見を活用できる余地が大きいと考えられる。今後の進展に期待したい。
NICTらから、Feイオン注入により、MOVPE成長エピタキシャル層と半絶縁性β-Ga2O3(010)基板の界面を介した漏れ電流を抑制する手法が報告された[11p-A21-6]。エピ/基板界面に蓄積するSiを不活性化するため、Ga2O3基板へFeを注入(5E19 cm-3)し、Fe注入層を55/110/165 nm残すようBCl3エッチングを施した後にMOVPE成長を行っている。アイソレーションは110/165 nmで測定限界レベルに達し、ドレイン電流はFe注入層厚の増加に伴って低下した。特性のバランスが最も良い110 nmでは、Lg=300/200 nmにおいてft/fmax=9/24 GHzが得られた。2025年春の報告[15a-K403-5]と比較すると、BCl3エッチングが重要な要素と考えられる。
東大からは、TMAHエッチング後のALD-Al2O3/β-Ga2O3 MOS界面特性に関する継続研究が報告された[11p-A21-3]。春季講演会の報告では、TMAHエッチング(60℃・60分)によりステップテラス構造は形成されるものの、CV特性のヒステリシスが増大する傾向が示されていた。今回、処理条件をRT・8 hに変更することで、CVヒステリシスの改善が確認された。
ダイヤモンド関連の研究については、「13.7 化合物及びパワーデバイス・プロセス技術・評価」セッションを聴講した。
佐賀大学らから、Al2O3ゲート絶縁膜/ダイヤモンド界面にNO2をドープした従来構造に対し、Al2O3ゲート絶縁膜中へNO2をドープしたダイヤモンドMOSFETの高周波特性について報告があった[11p-A21-10]。ゲート長157 nmでft=13 GHz/fmax=54 GHzが得られている。前回報告のfmax>120 GHzには及ばないものの、ドーパントとキャリアを空間的に分離した構造により、今後のキャリア移動度向上が期待される。さらに、ダイヤモンドFETのXバンド(10 GHz)高周波大信号特性[11p-A21-11]も報告された。1 GHzではPout=2.1 W/mm, Gain=25.9 dB, PAE=26.17%と良好な特性を示した一方、10 GHzではPout=0.24 W/mm, Gain=0.8 dB, PAE=0.04%まで大きく低下した。ゲート幅が90 µmと小さく、ロードプル測定範囲外であったとのことで、今後の評価結果が待たれる。
その他
そのほか、シンポジウム「次世代の熱エネルギー変換と冷却」、「21.1 合同セッションKワイドギャップ酸化物半導体材料・デバイス」、「18.2 プロセスインフォマティクス」の一部セッションを聴講した。
東京農工大から、メタマテリアル非放射冷却とその電子デバイス冷却への応用に関する報告があった[9p-B32-3]。この技術は、電磁波吸収体であるメタマテリアルと熱電変換を組み合わせ、入力電力を用いずに空間の熱放射エネルギーを吸収し、その熱を電流へ変換して冷却端へ輸送することで空間を冷却するパッシブ冷却手法である。密閉空間内にメタマテリアルデバイスを実装し、実際に空間冷却が可能であることが示された。具体的には、Ag disk/CaF2/Agコートメタマテリアル銅板で熱輻射を吸収し、熱電変換素子(Bi2Te3)に接続したCaF2/AgコートCu板を介して、閉空間外の外部抵抗でキャリアを消費することにより排熱している。また、非エルミート吸収体CaF2/Bi/CaF2/Biでは、膜厚制御によって広い黒体放射領域の吸収が可能となることが示された。本手法は、熱伝導性の低いカーボンブラックを用いる場合よりも高い冷却効率が期待できる。パワー半導体パッケージの蓋部などへ適用すれば、有用な熱対策技術となる可能性があると感じた。
NTT物性研らから、自律スパッタ法による高品質β-Ga2O3エピタキシー[8p-E301-22]、および解釈可能な自律スパッタによるブラックボックス最適化からの成長則抽出[9a-F211-8]について報告があった。自律実験は、自動実験と機械学習に基づく意思決定を閉ループで連携させることで、材料プロセス開発を加速する手法である。本研究では、RFマグネトロンスパッタ法の自律実験システムを構築し、高品質なβ-Ga2O3エピタキシーを実現した。システムには、自動RFスパッタ成膜、真空内ロボット搬送、自動光学測定、独自開発のベイズ最適化(BO)アルゴリズムが統合されており、基板温度、RFパワー、Ar流量、O2流量からなる成長条件空間を探索した。さらに、成長条件からUrbachエネルギーEUを予測するランダムフォレスト回帰モデルを構築し、約60回の閉ループ実験により、C面Al2O3 (0001)基板上のβ-Ga2O3ヘテロエピタキシーに適した高品質成長条件を見いだした。
詳細はEEtimes(https://eetimes.itmedia.co.jp/ee/articles/2608/25/news066.html)に掲載されている。
2018年のCSMANTECH国際会議ワークショップ「Big data」で、各プロセス(サイロ)における大量データの取得方法と解析手法について聴講した。その際、データサイエンティスト(エンジニア)と連携し、自動的にデータを取得するシステムを構築することの重要性を認識したが、近年のAIの進展により、その実現が具体化してきたように感じた。
※なお、本文作成にはCopilotを利用した。